「助けられる子供」救うために 医療団の医師が語る子供たちへの思い

産経新聞 東京朝刊 社会面 令和2年12月29日掲載

国内外の心臓病の子供らを救う「明美ちゃん基金」(産経新聞厚生文化事業団運営)のミャンマー医療支援は今年で開始から5年。多くの子供の命を救ってきたことを評価され、今年2月には同国政府から感謝状が授与された。そんな基金の医療団の一員として活動してきた医師に、治療を待つ子供たちへの思いを語ってもらった。

「足りない」補う力を 和歌山県立医大病院麻酔科 藤井啓介医師

藤井医師

「もっと、ほかに助けられる子がいるんじゃないか」。これまでに3回、明美ちゃん基金のミャンマー医療団に参加してきた和歌山県立医大病院麻酔科の藤井啓介医師(46)は、常にこんな思いを抱きながら患者と向き合っている。

参加のきっかけは平成29年秋、以前から基金に関わってきた同病院心臓血管外科の長嶋光樹医師(59)から「こんな活動があるよ」と声をかけられたことだった。「現地の子供や医師の力になれるなら」と考え、30年2月、初めて医療団の一員としてミャンマーへ渡った。

活動拠点となっているヤンゴンの国立ヤンキン子供病院では戸惑うことも多かった。麻酔科医は手術中、患者の血圧や脈拍など全身状態を管理するため、血中酸素飽和度を測る「パルスオキシメーター」を使用する。しかし、ミャンマーではパルスオキシメーターが途中で壊れ、数字が表示されなくなることがしばしばあった。手術中に突然停電し、スマートフォンの光で照らすことも。一つ一つの問題に懸命に対処した。

結果、活動を通じて自らも学ぶことができた。「何かが足りない時、どうすれば切り抜けられるのか、といった応用力がついた」

助かる命がある一方、いつも頭にあったのは、亡くなっていく子供たちのことだ。同病院には病に苦しむ多くの子供たちがいたが、技術や資材、医療費などさまざまな要因で、実際に十分な治療を受けられるのは一握り。日本なら助かるはずの子供が、手術を受けることすらかなわず命を落とす現実が、そこにあった。

自分たちに国の医療体制を変えるほどの力はない。でも、知識や技術を伝えることはできる。それゆえ、指導の際には、医療機器などの道具は日本から持ち込んだものではなく、ミャンマーで手に入るものを使うよう心掛けた。「あるものを使って助けられるのだという“可能性”を感じてほしい」との思いからだ。

帰国後も、助からなかった子供たちのことを思い出すことがある。だからこそ、日本でも、ミャンマーでも「目の前の患者さんに全力で向き合っていく」。これからも医療団で技術を伝えていくつもりだ。(小林佳恵)

支援はコロナで一時中断、再開時期検討

現地医師からの要請で始まった明美ちゃん基金のミャンマー医療支援は今春、当面の活動期間としていた5年を迎え、支援はさらに2年延長する方向だった。しかし、ミャンマーでも新型コロナウイルスの感染が拡大、外国人の入国が制限されていることもあり、一時的に中断せざるをえない状態になっている。

最大都市ヤンゴンを中心に約12万人が新型コロナに感染しているミャンマー。政府は集会の人数制限や夜間外出禁止令などで対応しているが、感染拡大に歯止めがかかっていない。明美ちゃん基金の医療団の活動拠点となっている国立ヤンキン子供病院(ヤンゴン)も、心臓手術やカテーテル治療は、最近まで緊急性の高い患者のみに実施。12月から徐々に通常手術を再開するなどしているが、治療できる患者は数少ない状態だという。

基金は、日本およびミャンマーの感染状況を注視しながら、医療支援の再開時期を慎重に検討していく方針だ。

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