家族そろって新年に「感謝」心臓移植受けた悠里ちゃん

産経新聞 東京朝刊 社会面 令和2年12月29日掲載

国内外の心臓病の子供らを救う「明美ちゃん基金」(産経新聞厚生文化事業団運営)は今年、新型コロナウイルスの影響を受けながらも、国内で心臓移植を受けた患者の支援と、ミャンマーへの医療支援の2本柱で活動を続けてきた。昭和41年に生まれた基金は来年で設立55年。心臓移植によって「未来へのパスポート」を受け取り、基金が適用された子供の今を追った。

2つの選択肢

小さな足でしっかりと、大地を踏みしめる。毎日楽しみにしている散歩。最近は、公園の遊具で遊んでみるなど積極性も出てきた。北陸地方に住む男性(38)は長女、悠里(ゆり)ちゃん(3)の、そんな姿に目を細める。

生まれてしばらくは、病気とは分からなかった。しかし3カ月健診で、皮膚や粘膜が青紫色になるチアノーゼが見つかり受診。重い心臓病「拡張型心筋症」と判明し、そのまま集中治療室(ICU)に入った。

病床では内服治療が続いた。小さい体で「嫌がりながらも頑張ってくれた」悠里ちゃん。いったん退院したが、自宅で過ごせた時間は長くはなかった。

再度容体が悪化し入院生活へ。つらい闘病生活で、おしゃべりが達者だった悠里ちゃんは言葉に詰まるようになり、食欲も落ちた。

回復の兆しが見えない中、妻は医師から2つの選択肢を提示されたという。

一つは、自宅に戻って残された時間を穏やかに過ごすこと。もう一つは、補助人工心臓を付けて心臓移植を目指すこと-。

「これからも悠里と過ごしていく」。移植を目指すことに迷いはなかった。

ドナーが現れたと伝えられたときは、「信じられない気持ちだった」。移植手術は無事終了。悠里ちゃんの胸では今、新たな心臓が元気に鼓動を続けている。

毎日を大切に

ただ、大事なのはこれからだ。移植が成功したとはいえ、退院後も免疫抑制剤の服用や食事制限などは続いており、感染症対策をはじめ、日々の生活で気を付けるべきことは多い。

特に新型コロナウイルスの感染拡大は大きな負担だ。外出には人一倍気を使い、出かけるときには必ずマスク、帰ってきたら手洗いをしっかりと行うなどの基本動作は徹底している。

それでも、今は家族そろってクリスマスを祝い、正月を迎えられる喜びに勝るものはない。一緒にお風呂に入ったり、妹にお姉さんらしく接する悠里ちゃんの様子を見たりする何げない日々がいとおしい。

幸せを感じながら、ドナーやその家族のことを忘れたことはない。医療関係者や休暇などを配慮してくれた職場、悠里ちゃんに寄り添い続けた妻(39)や親族に感謝してもしきれない。「悠里には、こうした支えがあって今があるということを感じ、感謝しながら行動できる子になってほしい。私も悠里を見守りながら、親として成長したい」。まずは一歩ずつ、毎日を大切に生きていく。(小林佳恵)

コロナ禍、臓器提供は減少

新型コロナウイルスの感染拡大は、心臓移植をめぐる環境にも大きな影響を及ぼしている。

脳死下の臓器提供条件が緩和された改正臓器移植法が平成22年に施行されて以降、国内の心臓移植は年々増加。令和元年には84件の心臓移植があり、うち20歳未満の患者への移植は17件だった。

しかし今年は新型コロナ禍で一変。今月28日までの心臓移植は54件で、うち20歳未満は6件にとどまっている。コロナ対応で救急の現場が逼迫(ひっぱく)し、臓器提供に対応する余裕がないことなどが影響したとみられる。

そうした中で移植を待つ患者。新型コロナは基礎疾患がある患者に重症化のリスクがあり、心臓病はその筆頭だ。病床の子供たちにはつらい状況も生まれている。

「感染防止対策で、家族との面会時間を制限せざるを得ない」。国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)の福嶌教偉(のりひで)・移植医療部長はこう説明する。

同センターでは現在、小児患者の親の面会を原則1日30分に限定しており、きょうだいとは会うこともできない。「スキンシップが大事な時期の子供たちが親やきょうだいに会えない状況は、発達に影響を与えかねない。一方で感染防止にも努めなければならない」と福嶌部長。医療現場は悩ましい問題を抱えている。

コロナとの闘いは、ドナーが現れた後も同様だ。移植後は免疫機能を抑える免疫抑制剤を服用するため、感染症には極めて弱い状態にある。

もっとも、彼らにとって命にかかわる感染症はインフルエンザをはじめ無数にあり、コロナ以前から感染症対策を普段から徹底しているという。福嶌部長は「そうした努力が、日本における心臓移植後の10年生存率の高さに表れており、マスクや手洗いなどの感染防止の基本が極めて重要なことを改めて証明している」と話している。(豊吉広英)

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